「ガラスの天井」(glass ceiling)とは、特に女性やマイノリティが職場でキャリアを進める際に、目に見えないけれど実質的に昇進を阻む障壁を指す言葉です。特に、企業や組織内での昇進や役職における男女差別を示す際によく使われます。
この「天井」は透明で、一見すると存在しないように見えるが、実際には存在し、上に進むことを阻むという点が特徴です。
由来
「ガラスの天井」という言葉は1970年代から1980年代にかけて使われ始め、特に企業文化や女性の権利向上を訴える活動の中で広まりました。この概念を強調した事例の一つに、大手企業における女性の役員比率の低さが挙げられます。数十年にわたり、女性は同じ職場で働きながらも、男性と同等の待遇や昇進の機会が得られないという現実が続いてきました。
また、当初は特に女性が組織内で高位の役職に昇進する際に直面する問題を表していましたが、現在では、性別に限らず、あらゆる形の差別や偏見によってキャリアが制限される現象に広く使われています。
壊れたはしご(broken ladder)との違い
「壊れたはしご」とは、ガラスの天井に似た概念で、キャリアの途中でステップアップするための機会やサポートが欠けている、もしくは構造的にうまく機能していない状況を指します。ガラスの天井は上昇が阻まれることを示すのに対し、壊れたはしごはそもそも昇進するための「手段や道具」が適切に提供されていないことを強調しています。
言い換えると、壊れたはしごは、経済的な機会や挑戦そのものが欠如している状態を指しますが、ガラスの天井は、そこに至るまでの機会は存在するが、昇進の際に見えない壁が立ちはだかる状況を意味します。
概念 | 定義 |
ガラスの天井 | 目に見えない障壁によって昇進や成長が妨げられる状況 |
壊れたはしご | 経済的機会そのものが欠如している状態 |
事例
- ガラスの天井の例としては、大企業の役員やCEOポジションに女性が少ない状況が挙げられます。これは女性が一定のキャリアステージまでは進むものの、そこからさらに上へ進むのが困難であるという現象です。
- 壊れたはしごの例としては、マイノリティの従業員が昇進のためのトレーニングやメンターシップの機会を得られないことなどが挙げられます。キャリアを進めるためのサポートが不十分で、結果として上に行く手段が壊れているという状況です。
英語での言い方
- ガラスの天井はそのまま glass ceiling と言います。
- 壊れたはしごは broken ladder と訳されますが、英語では特定の概念として頻繁に使われるわけではないため、状況によっては「career advancement obstacles」(キャリア進展の障害)などとも表現されます。
「ガラスの天井」と「壊れたはしご」という2つの概念は、社会における公平性や機会の平等の議論において重要なテーマです。
特に、ガラスの天井は単なる表現にとどまらず、現代社会における女性の地位向上やキャリア形成において重要な指標とされています。才能や能力を持ちながらも、なぜか前に進めない女性たちに対して社会はどのようにサポートを提供していくべきか、もはや議論ではなく、具体的なアクションが求められています。
アメリカ合衆国の大統領選挙におけるガラスの天井
アメリカ合衆国大統領選挙における「ガラスの天井」とは、特に女性やマイノリティが大統領のような最高権力のポジションに就く際に直面する目に見えない障壁を指します。
これは、能力があっても性別や人種による偏見や社会的な構造が原因で、最上位の役職に到達できない現象を意味します。アメリカをはじめ多くの国でこの現象が見られ、女性候補が特に大統領選挙で勝利することが難しい理由として挙げられます。
アメリカ合衆国大統領選挙におけるガラスの天井の要因
- 社会的・文化的な偏見
歴史的に男性が権力の座に就いてきたため、リーダーシップは男性的なものだとみなされる傾向が強いです。女性が大統領としてリーダーシップを発揮できるかどうかに対して疑問視されることが多く、感情的すぎる、強硬な決断ができないというステレオタイプが投票行動に影響を与えます。 - 政治的ネットワークや資金の格差
大統領選挙には莫大な資金が必要ですが、女性候補はしばしば男性候補と比較して資金集めに苦労することがあります。また、長年の政治ネットワークも男性中心であることが多いため、女性が必要な支持基盤を構築するのが難しいこともあります。 - メディアによる報道
女性候補はしばしば外見やファッション、性別に基づいた批評を受けることが多く、これが選挙キャンペーンに不利に働きます。男性候補にはあまり向けられないような批判が、女性候補には集中することが多く、これが有権者のイメージに影響を与えます。
ガラスの天井の事例
アメリカの大統領選挙の事例
アメリカ合衆国では、2016年の大統領選挙でヒラリー・クリントン氏が民主党の大統領候補として指名されました。彼女は大統領候補としての経験や支持基盤を持っていましたが、ドナルド・トランプ氏に敗北しました。
この結果に対して、クリントン氏自身や多くの専門家は、彼女が「ガラスの天井」に直面したことを指摘しています。彼女の性別が投票に影響を与え、最終的に敗北した一因だとされています。
また、他の女性候補も大統領選挙に挑戦してきましたが、いまだにアメリカでは女性大統領が誕生していません。これも「ガラスの天井」が存在している証拠と考えられています。
2024年11月5日(火)、アメリカ合衆国大統領選挙が行なわれます。そこにカマラ・ハリス氏が女性の大統領候補として立候補しています。果たして、彼女は、ガラスの天井を打ち破り、アメリカ合衆国初の女性大統領の座を手にすることができるでしょうか。
今、この記事を読んでいるあなたは、その結果をご存じかもしれません。
日本の自由民主党総裁選挙の事例
2024年9月27日(金)、日本の自由民主党総裁選挙、与党であるがゆえに実質的に次期、日本国総理大臣を決める選挙において、日本初の女性首相となるべく、高市早苗氏が挑戦し、決戦投票において接戦の末、石破茂氏に敗れました。
実力への評価が石破茂氏に及ばなかったからなのか、はたまたガラスの天井があったのかは誰にもわかりませんし、どちらの人が総裁になった方が良かったのかは、後世に歴史をみてもわからないでしょう。
しかし、総裁選挙における票の流れを見ると、私の考えとしては、やはりガラスの天井があったのではないか、と思わざるを得ません。
世界の事例
一方、他の国では女性が大統領や首相になった例もあります。例えば、イギリスのマーガレット・サッチャー氏やニュージーランドのジャシンダ・アーダーン氏、ドイツのアンゲラ・メルケル氏は、ガラスの天井を打ち破り、リーダーシップを発揮した例です。これらの女性リーダーは、他の女性にも道を切り開く存在として評価されていますが、全世界的に見るとまだ少数です。
ガラスの天井の未来
徐々に社会は変化しており、女性やマイノリティがトップポジションに就く機会が増えています。特に若い世代や多様性(ダイバーシティ/Diversity)を尊重する動きの広がりにより、ガラスの天井は少しずつ壊れつつあります。しかし、完全に無くすためには、まだまだ時間がかかることでしょう。