最近、クマの出没に関するニュースを目にする機会が増えました。特に冬の時期に話題となるのが、冬眠に失敗した「穴持たず」と呼ばれるヒグマの存在です。今年の気候や餌の状況から、穴持たずのグマが出没する危険性について注意が呼びかけられています。
マタギの間では古くから恐れられ、過去には日本史上最悪とも言われる事件も発生しました。しかし、穴持たずとは一体どのようなクマで、なぜ危険なのでしょうか。出没が報告される場所や、遭遇した場合の危険性について、正しい知識を持つことが重要です。
この記事では、「穴持たずとは?」という疑問を持つあなたのために、基本的な意味から危険性、そして関連する事件まで、専門的な情報を分かりやすく解説します。
この記事でわかること
- 穴持たずの正確な意味と語源
- なぜヒグマは冬眠に失敗するのか
- 過去に発生した重大な事件の概要
- 穴持たずの危険性と遭遇を避けるための注意点
穴持たず とは?クマが冬眠しない理由

- 穴持たずの基本的な意味
- ヒグマが冬眠に失敗する主な要因
- アイヌ語やマタギの言葉での呼び方
- 穴持たずに関するQ&A
穴持たずの基本的な意味
「穴持たず」とは、本来冬眠するはずのヒグマが、何らかの理由で冬眠できずに冬の間も活動を続ける個体を指す言葉です。文字通り「冬眠するための穴(巣)を持たない」状態が語源となっています。
通常、ヒグマは秋にドングリなどを大量に食べて体に脂肪を蓄え、冬になると巣穴にこもって春まで過ごします。しかし、冬眠に入れなかった穴持たずは、厳しい冬の環境下で餌を探し求めて徘徊し続けることになります。
この状態のクマは、常に空腹で飢餓状態にあるため、気性が荒くなっている場合が多いと考えられています。そのため、人間と遭遇した際に危険な行動をとる可能性が高まるとして、古くからマタギ(伝統的な猟師)などに警戒されてきました。動物生態学の分野や、クマによる獣害(熊害)を報じるニュースなどで使われる専門的な用語の一つです。
ヒグマが冬眠に失敗する主な要因
ヒグマが冬眠に失敗し、穴持たずとなる背景には、いくつかの要因が考えられます。これらは単独ではなく、複数の要因が絡み合って発生する場合もあります。
秋の時期の栄養不足
最も大きな原因として挙げられるのが、冬眠に入る前の栄養不足です。ヒグマは、秋にブナの実やドングリ、ヤマブドウといった木の実を大量に食べることで、冬眠中のエネルギー源となる脂肪を蓄積します。しかし、天候不順などが原因でこれらの餌が不作の年には、十分な栄養を摂取できません。体が冬眠の準備を整えられないため、冬になっても餌を探し続けなければならず、結果として穴持たずになってしまいます。
人間による影響
人間の活動が、意図せずヒグマの冬眠を妨げているケースもあります。例えば、冬眠に適した巣穴の近くで林業や工事が行われると、騒音や振動によってヒグマが落ち着いて冬眠に入れません。また、猟師に追われるなどして山中を逃げ回っているうちに、冬眠のタイミングを逸してしまうことも発生要因の一つです。
その他の要因
他にも、体が大きくなりすぎて自分に合ったサイズの巣穴を見つけられない個体や、病気や怪我によって正常な行動がとれない個体も、冬眠に失敗する可能性があると言われています。近年の暖冬傾向も、冬眠のサイクルに影響を与えているのではないかと指摘する専門家もいます。
アイヌ語やマタギの言葉での呼び方
穴持たずは、北海道の先住民族であるアイヌの人々や、古くから山と共に生きてきたマタギの間でも、特別な存在として認識されてきました。それぞれが持つ独自の言葉で、この冬に活動するクマを表現しています。
アイヌ語では、穴持たずのことを「マタカリプ(matakarip)」と呼びます。これは「マタ(mata)=冬」「カリ(kari)=うろつく、徘徊する」「プ(p)=もの」という3つの言葉が組み合わさったもので、「冬に徘徊するもの」という意味を持ちます。この言葉からも、冬の山をさまようクマの姿が目に浮かぶようです。
一方、マタギの世界では、そのまま「穴持たず」という日本語の呼称が一般的に用いられています。彼らにとって穴持たずは、通常のクマとは一線を画す、非常に危険で厄介な存在として代々語り継がれてきました。
穴持たずに関するQ&A
ここでは、穴持たずに関してよく寄せられる質問とその回答をまとめました。多くの人が抱く疑問を解消していきましょう。
穴持たずはヒグマだけですか?ツキノワグマもなりますか?
「穴持たず」という言葉は、主に北海道に生息するヒグマに対して使われることが多いです。しかし、本州に生息するツキノワグマも、同様に冬眠に失敗するケースは報告されています。ツキノワグマの場合、ヒグマほど完全な冬眠をしない個体もおり、暖冬の年などには冬でも活動することがあります。したがって、現象としてはツキノワグマにも起こり得ます。
冬眠しないクマは、必ず凶暴になるのですか?
穴持たずは飢餓状態にあるため、通常のクマよりも気性が荒く、攻撃的になる可能性が高いとされています。餌を求めて人里近くまで出没しやすくなるため、遭遇時の危険性は高いと考えるべきです。ただし、近年の研究では「栄養状態が良くても冬眠しない個体(富栄養の穴持たず)」の存在も指摘されており、「穴持たず=必ず凶暴」という単純なイメージについては、再検討の動きもあります。いずれにしても、冬にクマを見かけた場合は極めて危険な状況であると認識し、絶対に近づかないことが大切です。
穴持たずを見つけたらどうすればいいですか?
もし冬の山や人里近くでクマを目撃した場合は、穴持たずである可能性が非常に高いです。直ちにその場から静かに離れ、安全な場所に避難してください。その後、速やかに地元の市町村役場や警察、北海道であればヒグマ対策を専門とする機関に連絡し、出没場所や時間、クマの大きさなどの情報を提供することが重要です。個人の判断で対処しようとすることは絶対に避けるべきです。
危険な穴持たずとは?ヒグマの事件と出没

- 過去に起きた三毛別羆事件
- クマの出没場所とニュースでの報道
- 穴持たずの危険性について
- 今年の出没に特に注意すべき理由
- まとめ:穴持たず とは何か再確認
過去に起きた三毛別羆事件
穴持たずの危険性を象徴する事件として、日本史上最悪の熊害事件とされる「三毛別羆事件(さんけべつひぐまじけん)」が挙げられます。この事件の加害グマは、冬眠の機会を逸した穴持たずであったと考えられています。
この事件は、1915年(大正4年)12月9日から14日にかけて、北海道苫前郡苫前村三毛別(現在の苫前町)の開拓集落で発生しました。巨大なヒグマが開拓民の家を次々と襲撃し、最終的に7名が死亡、3名が重傷を負うという甚大な被害をもたらしました。(出典:三毛別ヒグマ事件の概要 | 商工労働観光課 | 北海道苫前町)
犯行を重ねたヒグマは、体重が約340kg、体長2.7mにも及ぶ雄の個体でした。このヒグマは、本来の生息地とは別の場所で一度目撃された後、三毛別地区に現れたことから、何らかの理由で冬眠場所を確保できずに徘徊していたと推測されています。事件の深刻さから、警察だけでなく軍隊も出動する事態となり、最終的には名うての猟師によって駆除されました。この三毛別羆事件は、穴持たずがいかに人の命を脅かす存在であるかを物語る、痛ましい教訓として今なお語り継がれています。
クマの出没場所とニュースでの報道
近年、クマの出没情報は全国的に増加傾向にあり、ニュースで報道される機会も増えています。特に北海道ではヒグマの生息数が増加しているとされ、札幌市のような都市部の近郊にまで出没するケースが後を絶ちません。
出没が報告される場所は、山林だけでなく、市街地、農地、観光地など多岐にわたります。秋には、餌となる果樹などを求めて人里に下りてくることが多く、冬になっても活動を続ける穴持たずは、引き続きこれらの場所に出没する可能性があります。
ニュースでは、クマの出没情報や被害状況がリアルタイムで報じられるため、地域住民の不安を煽る側面もあります。しかし、これらの報道は、危険が迫っていることを知らせ、人々に注意を促すという重要な役割を担っています。自治体や警察が発表する公式な出没情報を確認し、危険とされる場所には近づかないようにするなど、冷静な行動を心がけることが求められます。写真や動画を撮るために危険な場所に近づく行動は、絶対にやめるべきです。
穴持たずの危険性について

前述の通り、穴持たずの最も大きな危険性は、その精神状態と行動にあります。通常のクマと比べて、なぜ特に危険視されるのか、具体的な理由を理解しておくことが大切です。
第一に、飢餓による攻撃性の高まりが挙げられます。冬眠中のクマは絶食状態で春を待ちますが、活動を続ける穴持たずは、常に体を動かすためのエネルギーを必要とします。しかし、冬の山には餌となる植物や昆虫がほとんどなく、深刻な食糧不足に陥ります。この極度の空腹状態が、クマをより攻撃的で執拗な性格に変えると考えられています。
第二に、人間に対する警戒心の低下です。本来、クマは警戒心の強い動物であり、人を避ける傾向があります。しかし、飢えに苦しむ穴持たずは、餌を求めて人里のゴミ捨て場や農作物に執着することがあります。この過程で人や人工物に慣れてしまい、「人を襲えば食料を得られる」と学習してしまう個体も現れるため、非常に危険です。三毛別羆事件のヒグマも、一度人を襲った後、執拗に人間を標的とした行動を見せました。
今年の出没に特に注意すべき理由
専門家は、今年の冬も穴持たずの出没に注意が必要だと指摘しています。その背景には、地球規模の気候変動や、それに伴う自然環境の変化が関係しています。
一つの理由は、秋の餌となる木の実の豊凶サイクルです。ドングリなどは数年おきに豊作と凶作を繰り返しますが、全国的に凶作となった年には、多くのクマが栄養不足に陥ります。十分な脂肪を蓄えられなかった個体は冬眠に入れず、穴持たずとなって人里周辺を徘徊する可能性が高まります。
また、地球温暖化による暖冬も無視できない要因です。雪が少ないとクマの行動範囲が広がり、冬眠に入らない、あるいは途中で目覚めてしまう個体が増える傾向があります。気温が高いことで、クマ自身の冬眠への生理的なスイッチが入りにくくなる可能性も考えられます。
これらの理由から、特に餌が不作だった年の冬や、気温が高い冬には、穴持たずの発生リスクが高まると言えます。お住まいの地域の気象情報や、クマの餌となる山の木の実の豊凶情報に関心を持つことも、リスク管理の一環となります。
まとめ:穴持たず とは何か再確認
この記事では、冬眠しないクマ「穴持たず」について、その意味から危険性、関連する事件まで幅広く解説しました。最後に、本記事の重要なポイントを改めてまとめます。
- 穴持たずとは冬眠に失敗したヒグマなどを指す言葉
- 語源は「冬眠の穴を持たない」という意味から来ている
- 主な原因は秋の時期の栄養不足
- 人間の活動が冬眠を妨げることもある
- アイヌ語では「マタカリプ(冬に徘徊するもの)」と呼ばれる
- シャトゥーンはロシア語由来でほぼ同義の言葉
- 穴持たずは飢餓状態で攻撃性が高まる傾向がある
- 人を恐れなくなる場合があり非常に危険
- 日本史上最悪の熊害事件として三毛別羆事件が知られる
- この事件のヒグマは穴持たずだったと考えられている
- 近年クマの出没情報は全国的に増加している
- 暖冬や餌の不作の年は特に注意が必要
- 冬にクマを目撃したら直ちに避難し通報する
- クマの出没場所に安易に近づかない
- 正しい知識を持つことが身を守る第一歩
