イタリアといえば、パスタやピザをはじめとする美味しい料理が有名ですが、意外なことに「うなぎ」もイタリア文化の一部として深く根付いています。特に南イタリアの一部地域では、うなぎが祭りやクリスマスの伝統料理として親しまれており、その背景には興味深い歴史と文化が存在します。この記事では、イタリアにおけるうなぎの重要性や、うなぎ祭り、そしてなぜクリスマスにうなぎが食べられるのかについて詳しく見ていきます。

イタリアと「うなぎ」の関係:意外な伝統
うなぎの歴史とイタリアでの利用
うなぎは、古代ローマ時代からイタリアで食用とされてきた魚です。古代ローマの詩人ホラティウスは、うなぎを食べる様子を描写した詩を残しており、そのころからうなぎは珍味として扱われていたことがわかります。特にポー川流域や南イタリアのカンパニア州、ナポリ近郊では、豊富な淡水で育つうなぎが食文化の一部となってきました。
中世に入ると、カトリックの断食文化により、肉の代わりに魚を食べる習慣が広まり、うなぎはその中でも特に人気の高い食材となりました。うなぎの脂ののった豊かな味わいは、栄養価が高く、寒い冬にぴったりな料理として受け入れられてきたのです。
うなぎの漁業とイタリアの主要産地
今日のイタリアでは、特にポー川とアドリア海沿岸でうなぎ漁が盛んに行われています。ポー川はイタリア最大の河川であり、そこに生息するうなぎは「アングイッラ・アングイッラ」(Anguilla anguilla)と呼ばれるヨーロッパウナギです。伝統的な漁法では、長い歴史を持つ網や罠を使って捕獲され、これらの地域ではうなぎは経済的にも重要な資源とされています。
また、南イタリアのカンパニア州やシチリア島も、うなぎの名産地として知られています。特にカンパニア州では「アングイッラ・ナポレターナ」(ナポリ風うなぎ)として、特有の調理法で愛されています。
うなぎ祭り:地域ごとの特色
コマッキオのうなぎ祭り(Sagra dell'Anguilla)
うなぎ祭りで最も有名なのが、エミリア=ロマーニャ州にあるコマッキオという町で毎年10月に開催される「サグラ・デッラ・アングイッラ」(Sagra dell'Anguilla)です。コマッキオは「うなぎの町」としても知られており、町全体がうなぎに捧げられたこの祭りには世界中から観光客が訪れます。2024年のうなぎ祭りで行われた立ち漕ぎボートレース(金のパラデッロレース)にはイッテQ!チームとして内村光良さん、宮川大輔さん、手越祐也さんが参加し話題となりました。
祭りでは、地元の漁師が伝統的な漁法で捕らえたうなぎが屋台で提供され、様々な料理方法で楽しむことができます。グリルされたうなぎや、トマトベースの煮込みうなぎ、うなぎのリゾットなど、地域ごとのバリエーション豊かなメニューが揃います。また、祭りには音楽やパレードもあり、地域文化と食が融合した一大イベントとなっています。
他の地域のうなぎ祭り
コマッキオだけでなく、イタリア各地でうなぎを祝う祭りがあります。例えば、カンパニア州のサレルノでも「フェスタ・デッラ・アングイッラ」といううなぎの祭りが行われ、ナポリ風のスパイシーなうなぎ料理が楽しめます。また、ヴェネト州のカオルレでも、秋に「フェスタ・デル・ペスカトーレ」(漁師の祭り)があり、その中でうなぎ料理が大きな役割を果たしています。
クリスマスにうなぎを食べる理由
カトリックの影響と伝統
イタリアの多くの地域では、クリスマス・イヴに「ヴィジリア(Vigilia)」と呼ばれる伝統的な魚料理の晩餐が行われます。この習慣はカトリック教会の断食の戒律に基づいており、クリスマス・イヴには肉を避け、魚を食べるというものです。この伝統的な晩餐にうなぎが欠かせないのが、特に南イタリアのナポリやカンパニア地方です。
ナポリでは「アングイッラ・フリッタ」(揚げうなぎ)や「アングイッラ・イン・ウミド」(煮込みうなぎ)が、クリスマス・イヴの食卓に並びます。この料理は、古くからの伝統を守りつつも、家庭によっては様々なバリエーションがあり、うなぎが豪華なメインディッシュとして振舞われます。
うなぎが選ばれる理由
なぜうなぎがクリスマス・イヴに選ばれるのかについては、いくつかの説があります。ひとつは、うなぎが「豊かさ」と「繁栄」を象徴する食材だからです。うなぎはその長く滑らかな体から、家庭や家族の繁栄を祈るシンボルとして捉えられてきました。また、うなぎの脂肪分が冬の寒さから体を守る栄養源として重宝されたことも理由のひとつです。
さらに、うなぎの形状や質感が特に「特別な魚」として扱われることもあり、クリスマスの特別な日にはぴったりの料理とされています。
現代イタリアのうなぎ事情
環境問題とうなぎの漁獲量減少
近年、ヨーロッパ全体でうなぎの漁獲量が減少しており、イタリアでも同様の問題に直面しています。特にヨーロッパウナギ(Anguilla anguilla)は、環境保護団体から絶滅危惧種に指定されており、漁業の制限や保護活動が進められています。
ポー川流域では、持続可能な漁業を目指すための取り組みが行われており、地元の漁師たちは伝統的な技術を守りながら、環境に配慮した漁法を採用しています。また、イタリア政府や欧州連合も、うなぎの保護に向けた規制を強化しており、こうした努力が少しずつ成果を上げつつあります。
うなぎ料理の人気と未来
現代のイタリアでは、うなぎ料理は依然として人気がありますが、環境問題や漁獲量の減少により、以前ほど日常的に食べられるものではなくなっています。特にクリスマスや祭りなどの特別な機会に食べられることが多く、伝統的な料理としての位置づけが強まっています。
さらに、イタリアのシェフたちは、うなぎ料理を現代風にアレンジし、観光客にも提供しています。ミシュラン星付きのレストランでも、うなぎを使った洗練された料理が登場し、古くからの伝統を新しい形で継承し続けています。
まとめ:イタリアにおけるうなぎの魅力
イタリアにおけるうなぎは、古代から続く長い歴史と、豊かな食文化に深く根付いた特別な食材です。特に、地域ごとの特色あるうなぎ祭りや、クリスマスの伝統料理としての役割は、イタリアの文化的背景を物語っています。環境問題や漁獲量の減少が課題となる中でも、イタリア人はこの伝統を大切に守り続けています。
これからも、うなぎを通じてイタリアの歴史や文化を感じることができるでしょう。そして、イタリアを訪れる際には、ぜひ現地のうなぎ料理を味わい、その独特の魅力に触れてみてください。